最近ピアノを再び習いはじめた。
最後にピアノを習っていたのがいつだったか、もう正確には覚えていないが、おそらく大学生の頃のはず。20歳くらいのことなので、約20年ぶりのレッスン再開だ。
去年の正月明けに急に思い立ち、静岡の巨大なピアノショールームまで行ってピアノを購入してから1年くらいは、昔弾いた曲を練習しながらリハビリを続けていた。
だいぶ指が動くようになってきたところで、そろそろ新しい曲を練習して仕上げるには、独力に限界を感じるようになった。
そこで自分に合いそうな先生を探した。
どこの街にもピアノの先生はいるけれど、多くのピアノの先生が全然ダメなのはよく知っているので、以下のような基準を設けた。
専業ピアノの先生ではなくて、自分の演奏活動をしているプロのピアニスト
できれば海外での留学経験や、コンクール経験あり
できれば30代くらいで、自分より若い
平日夕方以降でもレッスン可能
家からもオフィスからも30分以内でレッスンいける
実際に探してみると、ピアノの先生は自宅でレッスンをしていることも多いので、女性の先生の場合は大人の男性のプライベートレッスンNGにしていることも多いことがわかった(その方がよいと思う)。なんとなく男性の先生の方がいい先生にあたる打率が高そうな感覚もあったので、途中から男性に絞って探すことにした。
若い先生の方がいいと思ったのはふたつ理由がある。ひとつは現代のピアノ奏法や指導方法もだいぶ進化しているので、大昔の音大教育の延長線で教えられるのは避けたかったからだ。若い先生なら、自分自身が新しい教育を受けているし、ピアノ指導について勉強している知識も当然新しい。「レッスン歴30年のベテラン」みたいなのはゴメンだし、本当に優れたベテラン指導者はプロの演奏家を指導するはずなので、僕なんかを指導している場合ではない。
もうひとつの理由は、若い先生から学ぶこと自体がよい経験になると考えたからだ。別にピアノに限らないことだが、僕のようにある程度歳をとると謙虚さを失ったりアンラーニングが難しくなったりするので、同じことを他者から学ぶなら、権威ある年長者から学ぶより若い人から学んだ方がよいのではないかと思う。専門外のことを専門家に学ぶときが一番謙虚になれるし、自分より若い人から多くを学べることを忘れないようにしたい。スポーツとかも同じような経験がしやすいはずなので、オススメ。
というわけで、最終的にはチャイコフスキーコンクールのセミファイナリストという素晴らしい実績をお持ちの先生に出会えた。
まだ数回しかレッスンを受けていないが、指摘は適切だし、指導は論理的だし、こちらの悩みには的確に回答してくれるし、とても楽しい。これほど密度の高くて学びの多い1時間は他で最近体験していないように思う。
大人になって都会に住んでいると、プロのピアニストにピアノを教えてもらうこともできる。
そんなこと昔は想像すらできなかった。
人生は素晴らしい。
先生につき始める前からだけど、10代・20代より今の方がうまくピアノを弾ける感覚が持てている。
技術的には、以前弾けた曲が思うように弾けないことも多い。
それでも、若い頃より進化している点が2点ある。
ひとつ大きいのは、体幹の筋肉が強化されていることだ。
これは明らかにヨガによる。
僕は長年けっこう熱心にヨガをやってきた結果、上肢の筋力がそこそこ強化されている。若いころはろくに運動もしていなかったので、全然筋肉がなかったし、腰痛に悩まされていたし、姿勢もよくなかった。今は腰痛肩こりとは無縁だし、アーユルチェアによるトレーニングの結果、正しい姿勢を何時間でも保てるようになった。
ピアノは指だけでなく全身をうまく使わないといけないのだが、身体の使い方は明らかに20代のころよりうまくなっている。
ヨガによって身体のどこの筋肉を使っているかを意識する習慣がついているのもピアノに役に立っている。
変なところに力が入っているとすぐ理解できる。
もう一つは、ここ20年でたくさん聴いてきた音楽的蓄積だ。
本当にたくさんの音楽を聴いてきた。
ロンドンに住んでいたころは年間50回くらいのコンサートを聴いていた。
その結果、より自由にいろんな角度から音楽を楽しめるようになった。
20代のころはもっと頭でっかちで、偏狭だったと思う。
世界的演奏家の超絶技巧ばかり聴いていたし、なんとなく凄そうなものに圧倒されていた(実際にすごいのだけれど)。
今はもっとのびのびと音楽を楽しめる。
荒削りだが瑞々しさ溢れる演奏も、全盛期にある現代の巨匠も、ピークを過ぎて衰えを感じるかつての巨匠も、天才とは言えないけど頑張っている日本の若手演奏家も、アマチュアの演奏も、それぞれの魅力を楽しむことができる。
同じように、自分の下手くそな演奏も楽しみ、愛することができる。
マラソンもそうだけど、40歳を過ぎても自己ベストを更新できることはたくさんある。
次の5年・10年で実現したい目標を考えるとワクワクするし、きっと実現できるだろうという前向きな自信もある。
最近は好きなことを何でも自由にやっていて、老後の生活に片足踏み入れているような感じがしなくもないが、実際はむしろ高い目標を立ててひたすらストイックに努力を重ねている感覚の方が強い。
結局、いくつになっても自分が本当に情熱を持っていることに取り組み、今できることに集中してベストを尽くすだけだ。20代のころより、それを集中してできるようになった。
すごく忙しいしすごく疲れるけど、今が一番たのしい。