スペシャリティ人材とオーナーシップ人材
もはや落語の枕のようになってきた感がありますが、働き方が本当に多様になってきていますよね。
1社に長期間社員として勤め上げる以外の選択肢が増えてきており、実際にそういう選択する人が増えているんじゃないかと思います。
選択肢が増えることはよいことなのですが、仕事の種類や人材のタイプと働き方には一定の相性があります。接客業においてフレックスタイムやリモートワークが難しいよねというのはわかりやすいですね(リモート接客とか新しいテクノロジーは置いておいて)。
一方で、いわゆるホワイトカラー(死語?)的な人たちやクリエイティブワーカーな人たちの場合、自分たちの仕事内容と働き方がどう規定されていくされていくのかというのは意外とわかりにくいものです。
今日は、この働き方と仕事内容の関係を「これからの時代はスペシャリティ人材とオーナーシップ人材に分かれていく」という話で説明してみようと思います。
スペシャリティ人材とオーナーシップ人材
スペシャリティ人材とは、契約に基づいてその専門サービスを提供する人のことです。スペシャリストとして、その高い専門性を約束通り発揮することが求められます。スペシャリストとして、その専門サービスの提供に責任を持ちます。
オーナーシップ人材とは、ミッションや目標の達成にコミットする人のことです(僕の造語ですが)。オーナーシップが責任を持つのは結果であって、自身がどのような職能を発揮するかではありません。
抽象的なので図にした方がわかりやすいと思います。
仕事全体というのものは不定形なかたまりなので、きれいにみんなで切り分けられるわけではありません。事業(ミッション)の中ですべきこと全体を、それぞれの領域・役割に切り分けてみんなで分担していきます。切り分けられた部分を担う人は、仕事の範囲が明確で、そのピースを全うすることが求められます。そのピースは内容によって難易度に差があり、難しいピースを担当する人がスペシャリティ人材です。
(他の人でも大体可能な相対的にカンタンなピースを担う人をここでは"ジュニア人材"と呼んでおきます。まだスペシャリティ人材ともオーナーシップ人材とも言えないけど、将来そのどちらかに進化していく人です)
このようにスペシャリスト人材に仕事を切り分けていくと、最終的に穴だらけの不定形な"残り"が生じます。いろんな仕事の"隙間"とも言えます。この"隙間"も含めたミッション全体について責任を追ってやりきる人をオーナーシップ人材と呼びます。オーナーシップ人材は、「ここの残りは私の仕事ではない」とは言えません。他の人に切り分けたピースも含めて、なんとかする必要があります。
もちろん、オーナーシップ人材自身も強力なスペシャリストとして、全体の重要なピースを埋めていくケースは多々あります。
「スペシャリティ人材はサービス提供に責任を持つ」というような書き方をすると「スペシャリティ人材は結果に責任を持たなくていいのか」みたいな解釈をされそうですが、そうではありません。ポイントは、スペシャリティ人材とは、その人のスペシャリティにあった形で切り出された仕事を担い、基本的には仕事の範囲が明確化されやすいという点です。
働き方の違い
この話が働き方の多様化とどう関わっていくかというと、これからの時代に会社で社員として働き続けるのは、オーナーシップ人材が中心になると思います。
オーナーシップ人材は、スペシャリティ人材を集め、活用して結果を出すことにコミットします。それには、オーナーシップ人材が最後の砦になることが大事なので、どんなに有能でもパートタイムだと困るのです。より重要なミッションほど時間軸も長くなるので、ポジションの高い人ほど長期のコミットが必要になりやすいという傾向もあります。
オーナーシップ人材においては、スキルが高い低いとかより、そのコミットメントに一番価値があります。なので、目標の達成、ミッションの遂行という結果の実績が大事になります。抜きん出た実績を上げた人は希少なので、評価も跳ね上がります。
スペシャリティ人材は、約束した専門スキル(サービス)を会社に提供することで対価を得ます。これはあらゆる職種において、基本的にはアウトソース化していく流れが加速しています。労働者(=サービス提供者)目線で言えば、フリーランス化しやすいとも言えます。 スペシャリティ人材の対価の多寡は提供スキルの付加価値・希少性によって決まりがちなので、比較的わかりやすいです。
副業などで価値提供しやすいのもこのタイプであり、相対的に短い期間でも貢献できるので、複数の仕事を同時にこなすポートフォリオ・ワーカーになったり、フルコミットの仕事を短期的に渡り歩くような仕事もしやすいんじゃないかと思います。
こういったスペシャリティ人材のフリーエージェント化のトレンドは特に新しいものでもなく、コンサルタント、建築家、(いろんな)制作会社や建設業などはもともとこういう働き方なので、その範囲が広がっていくだけとも言えると思います。
一方、オーナーシップ人材は、自分のキャリア全体におけるひとつの仕事のウェイトが大きくなるので、ひとつひとつの仕事を相対的に慎重に選択していった方がよいと言えます(日本だとこれまでも転職とはそういうものだったわけですが)。
これまでのマネージャー像とオーナーシップ人材
これまでの(昭和から平成に至る)日本の管理職・マネージャー像って、どちらかというか部下・後輩を束ねて成果を出す人だったのではないでしょうか。
あるいは、全然マネジメントする意思も能力もない人が、シニアプレイヤーとして名目上の管理職を務めていたケースがかなりあるのではないかと思います(これがいかに不幸なことか)。
これからの時代のオーナーシップ人材がマネジメントすべき人材は、"自分より経験の浅いメンバー"とは限らず、必要に応じて"自分よりはるかに経験豊富で有能なスペシャリティ人材"を活躍させるようなことがより重要になってくるのではないでしょうか。
なので、オーナーシップ人材には、「最後は自分でなんとかする力」だけでなく、「強い人に助けてもらう力」が重要です。
キャリア戦略
キャリア戦略上大事なのは、人材タイプ(オーナーシップ人材 / スペシャリティ人材) と働き方に相性があるということです。
上述の通り、スペシャリティ人材の場合、わりといろんな働き方が選択しやすいです。フリーランスやポートフォリオワーカーになったり、長期にわたるフルタイムで深い経験を積むことで希少性の高い人材になっていく道もあります。むしろ気をつけたいのは、同じ仕事を長く続けている間に自分のスキルがコモディティ化・陳腐化し、市場価値が下がってしまうようなケースです。エンジニアやデザイナーのような人はスキルやトレンドの移り変わりが激しいので、これには非常に敏感です。
大事なポイントは、オーナーシップ人材はパラレルワークやフリーランスが馴染みにくいということです。もちろんフリーランスで結果を出し続ける超優秀なオーナーシップ人材も、僕の知り合いだけでもたくさんいるのですが、全体から見ると相当レアケースです。仕事の機会という意味でもそんなに多くないので、やはりレアケースです。
僕個人の例を挙げると、僕は公認会計士でもあるのでスペシャリティ人材だと誤解されることがたまにありますが、完全にオーナーシップ人材です。スペシャリストとしてはいたって凡庸です。その点、経営者というのは全面的オーナーシップを担うのが必然であり、それこそ天職だと思っています。
僕のディー・エヌ・エー時代の同僚にも極めてすぐれたオーナーシップ人材が何人かいますが、あまりにもオーナーシップ人材なので、優秀だけど副業とかでお願いできる仕事がない、といったこともあります。
今後でいうと、相対的にスペシャリティ人材よりオーナーシップ人材の方が希少になっていくと思います。どちらも大変という点では変わらないのですが、仕事の仕方の自由度が狭くなりやすいイメージがあるし、多様な働き方が推奨される時代にあって、そちらを志向していると自然とスペシャリティ人材的な仕事を選択することになっていくからです。
そんな時代だからこそ、オーナーシップ人材としてキャリア形成は面白いし間違いなくよいキャリアになるぞ、と個人的には思うのですが、まぁみなさんの好きにしてください。
ちなみに僕らの会社では、スペシャリティ人材はポジションがあるときにのみ採用しますが、オーナーシップ人材として希少価値の高い人はポジションがなくても採用すると思います。それくらいオーナーシップ人材を評価しているし大事にしています。
ここまで書いて、「オーナーシップ人材って昭和的にすべてを仕事に注ぐような働き方になりやすいよね。そうすると、どうしても出産を視野に入れた女性とかはそういう選択をしにくいよね。では、女性がオーナーシップ人材として長期的に活躍できる環境をつくるには?」というトピックを思いつきましたが、また長くなりそうなので別の機会に考えます。
では。